捨て犬ブー太郎との思い出
いつも出会いは突然やってきます。
それは人だけでなく、動物も然り。
もしあなたが犬を飼いたいと思ったら、どこに行きますか?
ペットショップに行ったり、ブリーダーのところに行く人が多いのではないでしょうか。
もしかしたら、子犬が産まれたからもらってくれない?
と、知り合いから譲り受けるかもしれません。
愛犬との出会いはいろいろあると思いますが、私とブー太郎の出会いは、きっとみなさんが想像していないような出会いに違いありません。
そしてそれは私にとって運命の出会いでした。
【捨て犬だったブー太郎】
私が小学生のころでした。
学校が終わり家に帰ろうと校門をでるときに、人だかりができているのに気が付きました。
普段見ることのない、異様な光景に吸い寄せられ近づいて見ると、女の子たちが子犬を抱いていました。
どうやら、段ボールのなかに子犬が入れられて、校門の前に置いてあったようです。
みんな可愛い子犬に大興奮で、代わる代わる順番に子犬を抱いていました。
しかし、可愛がってはいるものの、誰も子犬を連れて帰ろうとはしませんでした。
捨てられていたのは茶色と黒色が混ざった雑種の、まだ産まれて間もないくらいの子犬でした。
実は、私はずっと犬を飼いたかったのですが、母にダメといわれていたので、
「きっと連れて帰ったら叱られる・・・」
と思い、一度は躊躇したのですが、
「おばあちゃんならきっと飼ってくれるかも!」
と思い、連れて帰ることにしました。
祖母は私の家の離れに住んでいます。
人にも動物にもとても優しいおばあちゃんで、これまでも何度も捨て犬を拾って保護してきました。
ドキドキしながら犬を連れて帰ると、祖母は二つ返事でOKしてくれました。
【ブー太郎はみんなの飼い犬?!】
捨て犬だったブー太郎は見間違えるほど立派に成長し、とてもカッコいい中型犬になりました。
私の住んでいる地域はとても田舎だったので、祖母はブー太郎を屋外で放し飼いにしていました。
ブー太郎はとても優しくて、私が学校に行くときは絶対に途中まで一緒に来てくれました。
私はそんなブー太郎が大好きで、犬を飼うのを禁止していた母も、いつの間にか大切な家族として受け入れていました。
ある日、下校していると近所の家の庭で餌を食べているブー太郎をみかけました。
そして、その家の人はうちのブー太郎のことを、
「クロちゃん」
と呼んで、可愛がっていました。
何か言おうと思いましたが、とても可愛がってくれている様子だったので、黙ってみていました。
その後も何度か、他の家の庭で餌をもらっていたり、撫でられていたりする姿をみていましたが、その度に違う名前で呼ばれていたブー太郎。
ただ、いろんな家でご飯をもらいたかっただけの、食いしん坊かもしれませんが・・・。笑
ブー太郎はこの地域みんなの飼い犬として愛されていました。
そしていつの間にかブー太郎は、この地域を守る門番のような存在になっていました。
日中はいつも、街につながる細い道の入り口に座り、知らない人がこの町に足を踏み入れようとすると、もの凄い勢いで吠えて追い返していました。
誰にでも吠えるのかと思いましたが、郵便屋さんや宅配便の人には吠えていませんでした。
どうやら、普段見慣れない顔の人だけを威嚇しているようでした。
ブー太郎は優しくて可愛いだけではなく、とても賢い犬でした。
【ブー太郎がいなくなった?!】
ある天気の悪い日のことでした。
突然ブー太郎がいなくなったのです。
ブー太郎はとても怖がりな犬で、見知らぬ人にすごい勢いで吠えて追い払うのも、実は怖いからという理由からでした。
ブー太郎は雷が何よりも嫌いで、雷雨の日は必ず家の中に入れてもらって、布団の中でうずくまっていました。
しかし、その日は違いました。
なにが理由かは覚えていませんが、祖父にひどく怒られたブー太郎は、家の中に入れてもらえず、雷雨の中外に出されたままでした。
そして雷雨がおさまり、晴れ間が見えたときにはブー太郎はいなくなっていました。
「どこかで雨宿りしていたのかな?」
「ブー太郎のことだから、少し待てば戻ってくるよね・・・」
そんな会話を祖母として待っていましたが、ブー太郎は戻ってきませんでした。
毎日学校の帰りに、いろんなところをまわってブー太郎を探しましたが、どこにもいませんでした。
誰かにいじめられていないかな。
ひとりで震えていないかな。
あんなに怖がりのブー太郎がひとりで大丈夫なはずがない。
車に轢かれたりしていたらどうしよう・・・。
そんなことを考えてブー太郎のことを待っていました。
心配で心配で、生きた心地がしませんでした。
ネットの掲示板に書き込みをしたり、近所に写真付きのチラシを貼ったり、書き込みをしたりして、一週間が経とうとしていたころ、電話が鳴りました。
それは市役所からの電話でした。
「◯◯市の保健所に、探している犬と似た犬が保護されています。あと数日で、殺処分されてしまう予定です。」
とても驚きました。
その市は私が住んでいる場所からとても離れた場所だったからです。
見つかったという安堵感と、急がないと殺されてしまうという不安で気が気じゃありませんでした。
急いで母の運転する車に乗り、遠く離れた保健所に向かいました。
保健所に行くまでの道は、車や人が多く行き交う通りがずっと続いていました。
「ブー太郎にとって、知らない人や怖い乗り物ばかりで怖かっただろうな・・・」
そんなことを考えていたら涙が溢れていました。
【おかえり、ブー太郎!】
保健所に着きました。
檻の中に痩せ細った犬が寝ていました。
やはりそれはブー太郎でした。
私と母に会えたブー太郎は、嬉しくて嬉しくて、安堵からおしっことうんちを漏らしていました。
保健所の人の話を聞くと、餌をあげても何も食べず、水も飲まずに檻の端の方でずっとうずくまっていたそうです。
何かの病気になってしまったのか、毛も抜け落ちてしまっていて、本当にかわいそうでしたが、私はブー太郎にまた会えたことが本当に嬉しかったです。
それから、ブー太郎は少しずつ元気になり、いつも通りの日常に戻っていきました。
【ブー太郎の友達】
ブー太郎にはゴンちゃんという親友がいました。
ゴンちゃんも放し飼いをされている犬で、毎朝ゴンちゃんは必ずブー太郎を迎えに来て、二匹でどこかに散歩に行き、ゴンちゃんは家までブー太郎を送り届けてから自分の家に帰ります。
ブー太郎はおばあちゃんのことが大好きで、天気の良い日は必ず毎日庭で日向ぼっこをして過ごしていました。
おばあちゃんもまた同じようにブー太郎のことが大好きで、家にいるとき2人はいつも一緒にいました。
【さよなら、ブー太郎】
時が経ち、捨て犬だったブー太郎はいつの間にか老犬になっていました。
歩くときもふらふらしているような状態なのに、毎朝私のところに必ず挨拶に来てくれました。
おはよう、と言いブー太郎の頭を撫でてブー太郎に最近のことを話したりするのが私の日課でしたが、ブー太郎は一気に体調が悪くなり、とうとう挨拶にも来られないくらい衰弱した状態になってしまいました。
それからブー太郎はおばあちゃんの家のなかで、毛布に包まれて寝かせることにしました。
私がブー太郎に会いに行くと、もう立つ力もないはずなのに、フラフラになりながら立ち上がろうとします。
まるで、
「僕は元気だよ!大丈夫だよ!」
と、言っているかのようでした。
その次の日の早朝、ブー太郎は息を引き取りました。
おばあちゃんの腕の中で最期を迎えたようでした。
おばあちゃんが朝方ブー太郎に会いに行くと、ブー太郎は震えていたそうです。
おばあちゃんは、
「もうダメなんだ、これが最期なんだ・・・」
と察して、ブー太郎を抱き抱えたそうです。
するとブー太郎は大きな声で、
「ワオーン」
と吠えてそのまま亡くなったそうです。
ブー太郎が一体なんて伝えたかったのかはわかりませんが、
「楽しかったよ、ありがとう」
と言ってくれていたら良いなと思います。
【毎日迎えにくるゴンちゃん】
ブー太郎が亡くなってからも毎日ゴンちゃんはブー太郎を迎えに来ました。
何日も何日も、毎日必ず迎えに来ました。
「ゴンちゃん、ごめんね。ブー太郎はもう、いないんだ」
と声をかけました。
【ありがとうブー太郎】
ブー太郎は私たちの大切な家族でした。
あの日、捨て犬だったブー太郎を連れて帰ってきて本当によかったと思います。
本当に運命の出会いだと思いました。
亡くなってしまったのは本当に悲しかったです。
心にポッカリ穴が空いたような感じで、何をしても楽しくない日が続きました。
けれど、時が経ってブー太郎のことを思い返すと、楽しかったことしか思い出せません。
子犬だったブー太郎があの日、私の手のなかでペロペロと舐めていたあの姿が、今でも忘れられません。
別れはつらいですが、ブー太郎は私にかけがえのない思い出を残していってくれました。
【最後に】
捨て犬や迷い犬の問題は、今も昔も変わらず存在します。
あなたが、もしもひとりで迷っている犬を見かけた際には、是非保護していただきたいです。
迷い犬だったら、きっとどこかでその犬を必死になって探している人がいます。
捨て犬だったら、きっと愛情たっぷりに育ててあげたいと思っている人がいます。
チラシ配りや、インターネットを利用して、その子の安心できる場所を見つける手伝いをしてあげてほしいです。
ご購読ありがとうございました。
今回のお話「捨て犬ブー太郎との思い出」の続き記事へ↓