チョッパーとの最後の日

チョッパーとの最後の日


 

【はじめに】

 

我が家には二人の息子がいます、二人とも中学生です。
その息子達が産まれる16年前、一匹のヨークシャーテリアの男の子と出会い、最初の息子になりました。

 

とても人懐っこく、まったく吠えないお利口な彼を、チョッパーと名付け14年間大切にしました。
…いいえ、大切にしていたつもりでした。

 

まだまだしてあげられることがあったのだと思います。
そんなチョッパーとの最後の日の出来事です。

 

【第一章】『病気の状態』

 

チョッパーはヨークシャーテリアの平均の体重より少し重く、大きさも小さくはなかったので、特に病気らしい病気にかかったことがありませんでした。
どちらかというと健康体で動物病院には、ワクチンなどの予防接種でしか行ったことがなかったのです。

 

このまま病気知らずで長生きしてほしいと思っていました。
でも願いは虚しくある日チョッパーの元気が無いことに気付いた私は、病院に連れて行きました。

 

 

肺に水が溜まっているのが見つかり、その水を無くす薬を点滴で体に入れるために入院しました。

 

肺に水は無くなってきたところで、水が溜まらないように飲む薬が、心臓に負担がかかり、心臓の弁が壊れ、人間でいう右心房と左心房の間の壁が壊れてしまい、いつ心臓発作起こしてもおかしくない状況になりました。

 

でも飲まないと溺れるような苦しみになるので、薬を飲むしかありませんでした。
もちろん、飲んだから心臓の弁が壊れたのではなく、元々チョッパーの弁が壊れやすかったそうです。

 

私達は散々悩みましたし、医師にも相談しました。
チョッパーが苦しむのだけは避ける方法で治療を願い、どうしても苦しみが避けられないのであれば、チョッパーの事だけを考えて判断してほしいと医師に伝えました。

 

医師は心臓の弁が壊れ始めているだけで、苦しいとか諦める段階ではないと言ってくれたので、家族でチョッパーの為に出来ることはしようと、いつか起こる最後の時を覚悟しました。
しかしその後まったく苦しそうではなく、むしろ年齢の割には元気かなと思えるほど、長い時間を過ごしました。

 

【第二章】『前夜の出来事』

 

チョッパーが亡くなる前夜、家族四人でテレビ見ながら、私の横にいつものようにチョッパーが寝ていました。

 

チョッパーは若い時、散歩が大好きで抱っこが大っ嫌いのわんぱくな男の子でしたが、十四歳になってからは昼寝ばかりで大好きなご飯も昔ほど食べず、私の手の中にいつも入り込むように甘えてきました。

 

しかしその日はいつもと違って、主人にすごく甘えていました。
主人はチョッパーの珍しい行動にすごく喜び、満足するまでずっと撫でてあげていました。

 

当時12歳と10歳の息子達にもベッタリで、特に少し乱暴に自分を扱う次男の事が苦手なはずなのに、大好きな長男と同じくらい次男にベッタリ。
誰にも負けないくらいチョッパーが大好きで乱暴な次男は、嬉しくて嬉しくてずっと撫でてあげていました。

 

抱っこもしようとするので、心臓辛いからと釘をさしましたが、そんな必要もないくらい、優しく抱っこしてあげていたので、チョッパーも次男の膝で寝ようとしていて、みんなで大喜びの夜だったのが忘れられません。

 

今考えると最後だからこその行動だったかもしれませんが、いつもそばにいたチョッパーが次の日には亡くなる事なんて誰にも想像はできませんでした。

 

【第三章】『最後になってしまった朝』

 

いつもの朝が来て、主人はいつものようにチョッパーを撫でておでこにキスをして

 

「いってきます」

 

と仕事に行きました。
子供達もいつものようにそれぞれ撫でて学校に行きました。

 

私もパートがある為、家事を済ませようとキッチンに立っていた時です。
視線を感じたので後ろを振り返ると、ストーブの前で寝ているチョッパーが頭を起こして私を見つめていました。

 

朝から頭をあげてこちらを見てるなんて、最近ではないことだったので、私は手を止めチョッパーのところへ行って話しかけました。

 

「どうしたの?チョッパー辛くない?ゆっくり寝てて、すぐ帰るからね。」

 

そう言うとチョッパーはすくっと立って、用意したばかりのご飯をモグモグ食べ始めました。
少し食べてまた私の前に戻り、寝始めました。

 

仕事に行く時間なので、もう一度チョッパーの前に座り、撫でてあげました。
チョッパーは目をつぶって気持ち良さそうにしていました。

 

「チョッパー、今日はご飯朝から食べて調子いいね。すぐ帰るからまっててね。」

 

そう言っていつも以上に撫でて何か後ろ髪引かれながら家を出ました。
そして、仕事をしながら今日はチョッパーが今朝口にしてくれた少し高価なご飯を買って帰ってあげようと考えていました。

 


 

【第四章】『一人で逝かせてしまった後悔』

 

仕事を終わらせて家に戻ったら、ちょうど子供二人が帰ってきました。
鍵を開けて家に入り、いつものようにチョッパーはストーブの前にいます。

 

「ただいまチョッパー」

 

声をかけて玄関に置いたスーパーの荷物を中に入れて、先に冷蔵庫へ片付けようとキッチンにいました。
ふと、いつもゆっくりでも私が帰るとすり寄ってくるチョッパーがまだ寝てます。

 

『あれ?』

 

と思いましたが、少ない荷物を片付けてからのんびり撫でてあげようと、キッチンから動きませんでした。
子供部屋に荷物を置いて、塾の用意をして2階から降りてきた子供達は、チョッパーが寝ているのでそばに優しく座り、撫で始めました。

 

微笑ましいなと思い、子供達の塾の前のおやつを用意していた時、子供達が私を呼びます。

 

「ママ、チョッパー動かないよ…チョッパー冷たいよ、なんで?」

 

何いってるの、寝てるだけでしょと子供達に言いながら、チョッパーを撫でました。
明らかに少し全体が固まっていました。

 

顔は寝てるだけのようでしたが、撫でると冷たく、全体が一緒になって動いているのがわかりました。
子供達の前なのに私は取り乱し、チョッパーを何度も呼びました。

 

 

「チョッパー!チョッパー!!寝てるだけでしょう?起きて?ねえ、起きて!」

 

それでも動かないチョッパーを抱き締め、私は号泣してしまいました。
子供達もチョッパーを撫でながら泣いていました。

 

私はすぐに主人に電話をして、チョッパーが死んでしまった、たった一人(匹)で逝かせてしまったと伝えました。
仕事が一段落していた主人はすぐに帰ると言ってくれて、20分で帰ってきました。

 

主人は寝ているようだ、寝たまんま逝ったかもしれないなと撫でながら泣いていました。
朝、ご飯を私の前で食べてみんなに撫でてもらって、夢見るように逝けたからこそ、あの姿だったんだ、きっと苦しまず逝けたんだと私はチョッパーを撫でながら自分に言い聞かせました。

 

しかし昨夜と今朝の様子でチョッパーが最後になると見抜けない自分を責めて涙が止まりません。
どうして後ろ髪引かれたのに仕事に行ってしまったんだろうと後悔しました。

 

泣いてばかりで何も出来ない私に、子供達は言いました。

 

「ママがそんなに泣いたらチョッパー天国逝けないよ。だから俺たちは、今日もいつもと同じように塾に行ってくる」

 

二人は泣き腫らした顔で塾に行きました。

 

「お前のお陰で子供達はなかなか立派になったぞ」

 

主人はチョッパーにそう言って、抱き締めるように撫でていました。
私は落ち着きを取り戻して、顔をあげると、チョッパーを大事そうにキレイにブラッシングしたり、目ヤニを拭いてあげて、小さな箱にベッドやタオルを敷き詰めている主人を見ました。

 


 

私はチョッパーを撫でながら言いました。

 

「チョッパーはパパの子になって幸せだったね。ママはチョッパーに何にもできなかったね。」

 

それを聞いた主人が

 

「チョッパーはいつもママだけ見てたよ、ママによく怒られていた若い時だって、ママだけ追っかけていたよ。」

 

私はまた涙が出て、心の中でチョッパーにたくさん語りかけました。
幸せだったかな、最後は苦しくなかったよね、朝のいつもと違う挨拶はさよならの挨拶?

 

さみしいよ、もっとそばにいてほしかったよ。
あっという間に時間が経ち、子供達が帰ってきました。

 

いつもの笑顔で元気な姿で。

 

「ただいまぁ!チョッパー!俺達が居なくてさみしかっただろー!」

 

まるでその時のチョッパーは返事をしているかのような、とてもいい顔でした。

 

【最後に】

 

それから四日後、ペット霊園でチョッパーの葬式を行い、火葬してもらって骨を持ち帰りました。
ペットを2度と飼わないと思っていた我が家はそれからちょうど一年後、赤ちゃん子猫を外で保護しました。

 

チョッパーと比べたりはしないで、みんな可愛がってますが、やはりチョッパーが優先の我が家です。
保護猫メスはロビンその一年後保護した男の子はサボ

 

チョッパーは写真ですが、我が家のかわいい海賊団は健在です。

 

ご購読ありがとうございました。

 

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