動物愛護ネットワークに登録し保護犬の里親になってみて
<1.期限付きの保護犬>
我が家はもともと、ラブラドールレトリーバー(黒)がいましたが、わずか6歳 心筋梗塞でこの世を去ってしまいました。
悲しみに暮れる私たち家族は、ひょんなことから地元の
「動物愛護ネットワーク」
に会員登録をしたのです。
会員・・・
といっても普段は特に何かあるわけでもなく。
時々届く会報と同封されてくる、保護犬・保護猫の里親募集ポスターを何枚か、貼ってくれるお店などにお願いをする程度でした。
ある日のこと、1本の電話がなりました。
「ミニチュアシュナウザーの女の子でだいたい2歳くらいと想定している子がいます。会ってみませんか?」
少々戸惑いながら、会ってみることにしました。
今でこそ、
「動物愛護センター」
等という名前に変わっていますが、当時は
「保健所」
と呼ばれていて、当日指定された場所はごみ処理センターの一角にある
「動物収容所」
というところでした。
中に入ってみると鼻をつく、強烈な臭い。
そして一斉に犬たちが吠え始めるのです。
劣悪な環境でした。
電話をいただいていたミニチュアシュナウザーの前で足を止め、
「この子です」
と一言。
小屋の隅っこに座り、こちらに背を向けてブルブルと震えていたのです。
そして、小屋のドアにかけられたホワイトボードには
日付が記載されており、書いてある日付はもう明日に迫っていました。
聞いたところ、それは殺処分が執行される日だとのこと。
ということは、今日、この子を連れて帰らなければ明日には殺されてしまう、ということなのです。
この犬は、ある地域で放浪しているところを住民の方からの通報により保護をした保護犬で、出産の跡があることから、おそらく繁殖犬だったのではないかと、施設の方は言いました。
病気や何かの理由で子犬を生むことができなくなった犬を捨てるブリーダーはたまにいるそうです。
戸惑いながら来たはずの私たちは、もう戸惑うことなくこの子を連れて帰ることに決めました。
様々な書類をかわし、譲渡の手続きをしていよいよ小屋から出てきました。
隅っこで震えている割にはなんの抵抗もなく、もはやされるがままの状態でした。
ミニチュアシュナウザーというと、きれいにトリミングをされたキリっとしたわんちゃんを想像しますが、毛はなんの手入れもされていなく汚れ、伸び放題に伸びた毛は毛玉になっていました。
あまりに汚れていて臭いもひどく、連れて帰るときには布にくるんで連れて帰りました。
こうして、我が家には2歳の保護犬がやってきたのです。
私たちはこの犬に
「ナナ」
という名前をつけました。
<2.あなたのお家はどこですか?>
我が家に到着してすぐ、お風呂場に直行です。
とにかくきれいにしてあげないと。
何度も何度もシャンプーをして、毛をとかし、少々不格好になってもいいからと毛玉を切り取ってあげました。
だんだん顔が見えてきて、初めて目があったときのおびえた表情は今でも忘れません。
部屋に開放しても、隅っこに行って小さく丸まっているだけ。
お水をあげても飲まず、エサをあげても食べない。
トイレもなかなかしない。
でもそれもそうかもしれないですよね。
捨てられて、施設に収容されて、突然迎えに来た人間から
「今日からここがお家だよ」
って言われても、ただただ怖いだけなのは当たり前です。
私たち家族はこの日から、我が家がこの子にとって安心して生活することができ、私たちのことを
「飼い主」
として受け入れてもらえるように努力することにしたのです。
<3.心の扉>
我が家にやってきた保護犬のナナ。
連れてきて1か月が経っても、この子の声を聞いたことがありませんでした。
クンクン鳴くわけでもなく、吠えるわけでもなく、ただただ静かに部屋の角からいつも私たち家族を見ていました。
耳が聞こえないのか、声を出すことができないのかと様々な心配をした私たちは、一度この子を動物病院へ連れていくことにしたのです。
全身をくまなく健康診断してもらい、念のため狂犬病や混合ワクチンも打ってもらいました。
見つかった病気は乳がん。
きっとこの病気でブリーダーは捨てたのかもしれないと獣医さんも言っていました。
すぐさまがんの摘出と、ついでに避妊手術の予約をして帰りました。
クンクン鳴いたり、私たち家族と遊んだりしないのは、まだ心を閉ざしているからだと。
「長期戦になりますよ」
と言われました。
反応してくれなくてもいいから、毎日毎日声をかけ、歩かなくてもいいから毎日散歩に行きました。
食べなくてもおやつをあげたり、私も一緒に部屋の隅っこに座って過ごしてみたり。
できることはすべてやろうと思いました。
そんな生活を続けて、2か月が経ったある日のことです。
外出して帰ってきて、ナナが過ごすリビングのドアを開けてみると、ドアの目の前にナナが立っていました。
これまでは、家族が出かけようが、帰ってこようがいつもの場所から動かなかったナナが、私をドアの前まで迎えにきてくれたのです。
私の顔を確認したらまたすぐに、自分の場所へ戻っていきましたが、もしかしたら心を開いてくれようとしているのかもしれないと思いました。
保護犬の心を開くために必要なものは、とにかく時間と愛情だと思います。
そして忍耐強さ。
この犬を捨てるとき、どんな気持ちで捨てたのか元飼い主の気持ちはわかりません。
ですが、保護犬の心の扉を叩き続けることは、簡単なことではありませんでした。
ドアの前まで迎えに来るようになり、なんとなく歩くとついてくるようになり。
おやつを差し出したら受け取って食べるようになり、散歩で歩くようになり、しっぽを振るようになり、膝の上に乗ってくるようになり。
このような普通の犬が当たり前のように飼い主にやっていることを、保護犬がやるようになるまで1年もかかったのです。
私は到底、この子の性格がそれをさせているとは思えませんでした。
間違いなくこの子の心の扉を閉ざしたのは人間なのです。
犬にとっての1年は、人間の感覚では数か月です。
それほどの長い時間をかけて、保護犬のナナが私たちを家族と認め、また心を開くまでの葛藤や勇気を想像すると、小さな体でものすごいエネルギーを使ったに違いありません。
もう二度とその扉を閉ざすことがないよう、精一杯の愛情を注ぐと誓いました。
<4.保護犬ゼロの社会>
近年、多頭崩壊やステイホームによるペットブームという言葉をよく耳にするようになりました。
ペットブームという光の陰に必ずと言っていいほど、保護犬がいます。
殺処分を減らす運動は、ほとんどが善意及びボランティアによって構成されているのが現実です。
殺処分を減らせばまたどこかでパンクする仕組み。
そうではなくて、殺処分の前の段階、保護犬を減らさなければならいのではないでしょうか。
(もちろん、猫やほかの動物も同じことが言えます。)
私たちはたまたま、我が家にやってきたナナを保護犬として迎えましたが、施設にはナナ以外にも多くの保護犬がいました。
可能ならすべて連れて帰りたい、しかしそれは不可能で、命を選択しなければならない現実に胸がキュッと苦しくなりました。
人間の勝手でペットとして飼われた、または繁殖をさせられていた犬たちの命を、なぜ人間が選択するのでしょうか。
一度飼うと決めて家族として迎えたのであれば、その子の最期まで責任をもって添い遂げる。
基本的なことですが、これを徹底し
「保護犬」
と呼ばれる犬が1匹でも少なくなる社会になっていくことを強く望みます。
賞味期限のように命に期限を付けれられる保護犬たち。
今保護されている保護犬たちがどうか幸せに暮らせる環境や飼い主に出会うことができますように。
ご購読ありがとうございました。
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